みなさん、お変わりありませんか。この原稿が読まれるころは、日本も今よりずっと暖かくなっていることでしょう。夏生まれのせいか、わたしは寒さが苦手で、寝室の窓には、イタリア暮らしのマネをして、“サラミ”が置いてあります。“サラミ”とは直径10センチほど、長さ1メートル半ほどの、棒状をした布の詰め物のこと。イタリアでは、冬になるとこれを窓やドアの下に敷いて、すきま風を防ぐのです。なかなかの優れもので、すきま風だけでなく、布の厚さで冷気そのものを遮断してくれるので、部屋の保温にはとても役立ちます。なんと言うの、と尋ねたら、「ああ、“サラミ”のことだね」。
北イタリアも、今ごろが一年でもっとも寒さが厳しい時期。「冬のヴェニス」と言えば、この寒さで、海に乳白色の美しい霧がたちのぼる幻想的な印象ですが、そのベニスから、もうすぐ、大切な友人がヴェネトのおいしいワインと“最高級のサラミ”をたずさえて(税関で没収されてしまうかしら)、日本を訪ねてくれることになりました。まだ18歳のグロリアは、とてもチャーミングなピアニストの卵。大学では数学を学んでいます。ヨーロッパでは、わたしたちのようなピアノ一辺倒の人生は人気がないそうで、音楽院でピアノを弾きながら別の大学にも通って、音楽以外の勉強にも励むのがごく当り前なのです。ですから、音楽家はみなさん幅ひろい知識をもっているし、音楽を職業に選ばなくとも、音楽は文化の深い部分にしみとおっていって、良い聴き手を育くむことになるのでしょう。 せっかく大切な友人が来日するので、彼女と同じ世代のピアニストにも声をかけて、ちょっとしたガラ・コンサートをひらくことにしました。もちろん、わたしも自分のピアノで歓迎します。きっと、グロリアはとびきり新鮮なヴェニスの空気を吹き込んでくれるに違いありません。もうすぐ、とっておきの春が、一足先に巡ってきます。
by kuroakinet
| 2006-02-05 06:57
| 月刊ショパン
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黒田亜樹(piano)
東京芸術大学卒業後、イタリア・ペスカーラ音楽院高等課程を最高位修了。 フランス音楽コンクール優勝。ジローナ20世紀音楽コンクール現代作品特別賞受賞。現代音楽演奏コンクール優勝、朝日現代音楽賞受賞。卓越した技術と鋭い感性は作曲家からの信頼も高く、「ISCM世界音楽の日々」「現代の音楽展」「サントリーサマーフェスティバル」「B→Cバッハからコンテンポラリー」など、主要な現代音楽演奏会にて内外作品の初演を多数手がける。ビクターより「タンゴ・プレリュード」「タンゴ2000」をリリース。タンゴの本質を捉えた表現と大胆なアレンジは各方面で注目された。2013年にはバンドネオン奏者の小松亮太氏とともにピアソラ作曲オペラ『ブエノスアイレスのマリア』を、ピアソラ元夫人で歌手のアメリータ・バタールを迎え完全上演し話題を呼んだ。国外ではサルデーニャのSpazioMusica現代音楽祭でブソッティ作品の初演、パルマのレッジョ劇場でキース・エマーソンの代表作「タルカス」を現代作品として蘇演、シチリアのエトネ音楽祭出演などイタリアを中心に活動。 作曲家・植松伸夫と浜渦正志の指名により録音した「PianoCollectionsFINALFANTASY」やイタリアLIMENレーベルよりリリースした「ブルクミュラー練習曲全集」のDVDによっても、世界中のファンに親しまれている。 2014年アメリカのオドラデクレーベルより「火の鳥」~20世紀音楽ピアノのための編曲集リリース。イギリスBBCミュージックマガジンにて五つ星、レコード芸術誌にて特選盤に選ばれる。「東京現音計画」メンバーとしてサントリー芸術財団第13回佐治敬三賞受賞。ミラノ在住。ht t p:// k u r o a k i. n e t 公式サイト・クロアキネット 以前の記事
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