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月刊ショパン 2004年3月号 ヴェニスの春風

月刊ショパン 2004年3月号 ヴェニスの春風_e0056670_7253883.jpgみなさん、お変わりありませんか。この原稿が読まれるころは、日本も今よりずっと暖かくなっていることでしょう。夏生まれのせいか、わたしは寒さが苦手で、寝室の窓には、イタリア暮らしのマネをして、“サラミ”が置いてあります。“サラミ”とは直径10センチほど、長さ1メートル半ほどの、棒状をした布の詰め物のこと。イタリアでは、冬になるとこれを窓やドアの下に敷いて、すきま風を防ぐのです。なかなかの優れもので、すきま風だけでなく、布の厚さで冷気そのものを遮断してくれるので、部屋の保温にはとても役立ちます。なんと言うの、と尋ねたら、「ああ、“サラミ”のことだね」。
 北イタリアも、今ごろが一年でもっとも寒さが厳しい時期。「冬のヴェニス」と言えば、この寒さで、海に乳白色の美しい霧がたちのぼる幻想的な印象ですが、そのベニスから、もうすぐ、大切な友人がヴェネトのおいしいワインと“最高級のサラミ”をたずさえて(税関で没収されてしまうかしら)、日本を訪ねてくれることになりました。まだ18歳のグロリアは、とてもチャーミングなピアニストの卵。大学では数学を学んでいます。ヨーロッパでは、わたしたちのようなピアノ一辺倒の人生は人気がないそうで、音楽院でピアノを弾きながら別の大学にも通って、音楽以外の勉強にも励むのがごく当り前なのです。ですから、音楽家はみなさん幅ひろい知識をもっているし、音楽を職業に選ばなくとも、音楽は文化の深い部分にしみとおっていって、良い聴き手を育くむことになるのでしょう。
 せっかく大切な友人が来日するので、彼女と同じ世代のピアニストにも声をかけて、ちょっとしたガラ・コンサートをひらくことにしました。もちろん、わたしも自分のピアノで歓迎します。きっと、グロリアはとびきり新鮮なヴェニスの空気を吹き込んでくれるに違いありません。もうすぐ、とっておきの春が、一足先に巡ってきます。
by kuroakinet | 2006-02-05 06:57 | 月刊ショパン
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