人気ブログランキング | 話題のタグを見る

2004年月刊ショパン 5月号 オッフィチーナ・メカニカ

2004年月刊ショパン 5月号 オッフィチーナ・メカニカ_e0056670_22435572.jpgみなさん、お元気ですか?2ヵ月ぶりにミラノに戻ってきました。  去年のちょうど今ごろは、古い運河沿いのスタジオにこもって新しいCDを録音していました。ポルタ・ジェノヴァ駅から古びた路面電車で、のんびりした風景を行くと、マウロ・パガーニのスタジオ「Officina Meccanica」前の停留所に着きます。 「機械工場」というスタジオの名前の由来どおり、このロフトはその昔、機械工場だったそうです。デューク・エリントンも弾いたという50年前のスタインウェイピアノがあって、スタジオを最初に訪ねたとき、譜面台には使いこまれたバッハの『平均律』の楽譜がのっていました。年代物のエレキギターが並ぶスタジオとのギャップにびっくりして、「誰が弾くの?」と尋ねると、スタジオのオーナー、パガーニが練習しているものだったのです。彼は世界中に熱狂的なファンをもつ天才ロックミュージシャン。ロックとバッハの取り合わせに、この国の音楽の歴史を垣間見る気がしました。  スタジオの古いピアノをわが子のように大切に手入れしていたのが、調律師のクラウディオ。古く乾いたスタインウェイは、あたたかくて包みこむような音色が魅力でしたが、古いせいか、鍵盤ごとにムラがあるのです。日本の整った新しいピアノを弾きなれているわたしは、最初とまどってしまいましたが、クラウディオはこう言うのです。 「鍵盤ごとに音が違うのがこの楽器の味わい、それを弾きこなせなくちゃ」  そうして、クラウディオと一緒に気の遠くなるような時間を費やしながら、お互いが求める音色をひとつひとつ作りあげていきました。現代のピアノでは表現できない、深い響きが立ちのぼったとき、スタジオ中のみんなから歓声が上がりました。このスタインウェイは、クラウディオと「機械工場」の誇りだったのですね。音楽をみんなで創りあげる感激を、心から共有できた、貴重な時間でした。何日間にもわたったスタジオ録音の最後、深夜の大スタジオの明かりを消して、無心であのピアノと語りあって弾いたムソルグスキーは、わたしにとってかけがえのない思い出となりました。 P.S. スタジオでの録音の様子は、クロアキネットhttp://kuroaki.net/でご覧ください。
by kuroakinet | 2006-02-08 04:31 | 月刊ショパン
<< 2004年月刊ショパン 6月号... 月刊ショパン 2004年4月号... >>