早いもので、一年があっという間に過ぎてしまいました。去年の今ごろはシュトイアーマンの編曲したシェーンベルグの室内交響曲を練習していて、モデナからバスで少し入った先にある「カステル・ヴェートロ(ガラスの城)」という、おとぎの国のような、小さくて美しい中世の街の一角で、ピアノに向かっていました。小川にかかる橋を向こうから、丘の上のかわいいお城へ坂道が続いていて、だいだい色をした”Auguri(メリークリスマス)”のイルミネーションが、夜道に浮き上がって、それはきれいでした。何度か「ガラスの城」を訪ねたのですが、赤れんがの城壁をくぐって、高台の「ローマ広場」でお昼寝したこともあるんです。この広場の石畳は、チェス台模様に白と黒の大理石がはめこまれていて、何だかまるで不思議の国のアリスに迷い込んだ気分。春には、ここに本物の騎士をならべて、チェス大会もするそうです。石造りの街全体もすごく古めかしくて、でもメルヘンチックで、ちょうど「不思議の国」の挿絵みたいな感じ。だから、ラッパうさぎが、ハートに縫いとりされた中世の服でファンファーレを鳴らしたり、スペードの庭師やハートの女王が大騒ぎしていてもぴったりくるような、不思議な時間が流れていました。そう思うと、「ガラスの城」のネーミングも、何だかばっちりですね。いつか、モデナ出身のヴィットリアと話したとき、「ガラスの城」って素敵なところよね、と話すと、「あの街は本当にちょっとした宝石よ」、と思わずうっとり目を細めていましたっけ。ヨーロッパに出かけると、そんなファンタジーが暮らしのなかに溶けこんでいるのが、すごく羨ましいのです。だから、誰もが自分の人生の晴れ舞台で、一人一人主役をおおみえきって演じていけるような…。音楽を演奏するとき、そんなファンタジーがとても大切に感じることがあるんです。空気の匂い、太陽の光、人々の笑いとかレストランで食器が触れあう音。生きてるって実感がこもっていて、音楽にも栄養を与えてくれる気がするんです。今ごろ、きっとあの坂道に、まただいだい色のイルミネーションがきらきらしているころじゃないでしょうか。みなさんにも、Buon Natale e Felice Anno Nuovo(メリークリスマス、ハッピー・ニューイヤー)!
by kuroakinet
| 2006-02-24 08:02
| 月刊ショパン
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黒田亜樹(piano)
東京芸術大学卒業後、イタリア・ペスカーラ音楽院高等課程を最高位修了。 フランス音楽コンクール優勝。ジローナ20世紀音楽コンクール現代作品特別賞受賞。現代音楽演奏コンクール優勝、朝日現代音楽賞受賞。卓越した技術と鋭い感性は作曲家からの信頼も高く、「ISCM世界音楽の日々」「現代の音楽展」「サントリーサマーフェスティバル」「B→Cバッハからコンテンポラリー」など、主要な現代音楽演奏会にて内外作品の初演を多数手がける。ビクターより「タンゴ・プレリュード」「タンゴ2000」をリリース。タンゴの本質を捉えた表現と大胆なアレンジは各方面で注目された。2013年にはバンドネオン奏者の小松亮太氏とともにピアソラ作曲オペラ『ブエノスアイレスのマリア』を、ピアソラ元夫人で歌手のアメリータ・バタールを迎え完全上演し話題を呼んだ。国外ではサルデーニャのSpazioMusica現代音楽祭でブソッティ作品の初演、パルマのレッジョ劇場でキース・エマーソンの代表作「タルカス」を現代作品として蘇演、シチリアのエトネ音楽祭出演などイタリアを中心に活動。 作曲家・植松伸夫と浜渦正志の指名により録音した「PianoCollectionsFINALFANTASY」やイタリアLIMENレーベルよりリリースした「ブルクミュラー練習曲全集」のDVDによっても、世界中のファンに親しまれている。 2014年アメリカのオドラデクレーベルより「火の鳥」~20世紀音楽ピアノのための編曲集リリース。イギリスBBCミュージックマガジンにて五つ星、レコード芸術誌にて特選盤に選ばれる。「東京現音計画」メンバーとしてサントリー芸術財団第13回佐治敬三賞受賞。ミラノ在住。ht t p:// k u r o a k i. n e t 公式サイト・クロアキネット 以前の記事
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