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ミラノ・アレッサンドロ・ヴォルタ科学高校 校長より、学生父兄宛の手紙 全文訳

ミラノ・アレッサンドロ・ヴォルタ科学高校(liceo scientifico Alessandro Volta)ドメニコ・スクイッラーチェ(Domenico Squillace)校長より、学生父兄宛の手紙。


「 ”ドイツ軍がミラノにペストをもたらすのではと保健当局は危惧していたが、ご存じの通りペストはミラノにやってきた。よく知られるように、それどころかペストはイタリアの大部分を侵し、人々をなぎ倒していった。”

これは「いいなづけ」(Alessandro Manzon: I Promessi Sposi邦題「いいなづけ」「婚約者」。
マンゾーニの不朽の名著)第31章冒頭の言葉です。この章では続く章とともに、1630年ミラノを斃したペスト伝染病の描写がつづきます。
実に啓示に富み、驚くほど現代的な文章ですから、この混乱した日々のなか、心して読むことを奨めます。

これらのページには、外国人の危険性への偏見、当局間の激しい諍い(首相と州知事との軋轢が話題になった)、(今回イタリアに病気を持ち込んだ)第一号患者の病的なほどの捜索劇、専門家に対する侮辱、(中世ペスト塗りと呼ばれた)ペスト感染者狩り、言われなき風評、もっとも馬鹿げた治療、生活必需品の掠奪、保健機構の緊急事態など、全てが書かれています。
これらのページを捲れば、Ludovico Settala 、Alessandro Tadino(両者ともペスト治療に尽力した高名な医者)、Felice Casati(ペスト流行時Lazzaretto院長だった高僧)のように、わが校周辺の通りに名が冠され、みなさんもよく知っている名前にも出会うでしょう。
何よりわが校は、ミラノLazzaretto(伝染病患者収容施設としてヴェネチア門から外に建設されていた)地区の中心に建っているのですから、こうして綴られた言葉は、マンゾーニの小説からというより、わたしたちの日々のページから飛び出してきたようですね。

みなさん例え学校が閉まっていても、わたしはこれだけはお話したい。わたしたちの世界は、昔からずっと同じことを繰返してきました。
わたしたちの高校は、規律を貴び、落着いて勉学に励むべき学び舎であり、今回のような関係省庁からの、異例な学校閉鎖通告に従うのは当然です。わたしは専門家ではありませんし、専門家を偽るのも嫌ですから、当局の今回の措置について、個人的意見を述べるのは避け、彼らの対策を尊重し、全幅の信頼を置いて、彼らからの助言を注意深く見守ってゆきたい。
わたしは、皆さんが冷静沈着につとめ、落着いて行動し、集団心理の過ちに陥らず、細心の注意を払いつつも、ぜひごく普通の生活を続けてほしいと願います。
どうか、この時間をぜひ有効に役立ててください。家から出て散歩をし、良書に接してください。みなさんが健康ならば、家に閉じこもる必要はありません。スーパーマーケットや薬局に押し掛ける理由はないのです。
マスクは苦しんでいる患者さんたちに譲りましょう。彼らにこそ必要なものです。今日、地球の端から端まで、この病気の伝わるめざましい速さは、わたしたち自身が作り出したものであり、それを阻める壁などありません。その昔も、伝播する速さが多少緩慢なだけで、等しく伝わってゆきました。マンゾーニや、彼よりむしろより力強くボッカチオがわたしたちに教えてくれること、それはこうした出来事で社会生活や人々の繋がりに毒が盛られ、市民生活がより粗野になることです。目に見えない敵に脅かされていると感じると、わたしたちの身体に走る本能が、どんなものも敵であるかと見誤らせてしまいます。
危険なのは、わたしたちとまるっきり同じものでさえ、まるで脅威のように、潜在的な攻撃者のように見せてしまうのです。14世紀17世紀の伝染病と比べて、わたしたちには現代医学があるのを忘れないでください。医学の発達や精度を信じてください。理性的な思考を使おうではありませんか。医学とは、わたしたちの最も尊い財産、つまりこの社会やわたしたちの人間性を守るために生まれたものです。わたしたちに今それが本当にできないのであらば、ペストが本当に勝利したことになるでしょう。では近いうちに。みなさんを学校で待っています」。

訳 杉山洋一 (2月28日ミラノにて)

水牛のように2020年3月号より転載


https://www.corriere.it/scuola/secondaria/20_febbraio_26/coronavirus-cari-ragazzi-leggete-manzoni-boccaccio-non-fatevi-trascinare-delirio-59cd3726-5869-11ea-8e3a-a0c8564bd6c7.shtml

by kuroakinet | 2020-03-03 18:17
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